はじめに
われわれフランス語部会のスタッフは、フランス語だけなく、日吉を中心に開講されている教養科目も担当しています。とりわけ経済学部で長い伝統を誇る「自由研究セミナー」には毎年スタッフが講座を開いています。これはその名のとおり、経済とも、ときにはフランスとも関係のない自由なテーマ設定が特徴の科目です。各教員の専門を活かし、語学とはひと味違ったゼミ形式の授業をおこなっています。他学部の学生も受講可能なため、経済学部以外の、さらに別の学年の塾生と友好を深めることのできる貴重な場でもあります。
ここではフランス語部会スタッフが近年扱っているテーマをご紹介します。ただし年度によっては「自由研究セミナー」を開講しない場合や、内容が変更になることもあります。シラバスを確認のうえ履修をしてください。
大嶋えり子 現代フランスの諸問題
現代のヨーロッパ、そのなかでもとりわけフランスが直面する問題を取り上げて、その歴史的背景や背後にある社会構造を探るセミナーです。論文や書籍を通じて、社会的事象を多角的に分析する訓練を行い、ヨーロッパ社会の理解を深めるとともに、社会構造を理解するためのツールを一緒に手に入れましょう。また、年度末に論文を完成させるので、他人の文章を正確に読み、理解し、自分の思考を整理し、文章に反映させるまでを指導していきます。
マルコ・ソッティーレ ヨーロッパにおける移民問題、難民問題
このセミナーではヨーロッパにおける「移民問題」と「難民問題」をテーマに、双方の歴史的背景・特徴を考察します。「移民・難民」が描かれたいくつかの映画作品をとりあげ、ヨーロッパにおける「移民・難民」像を、その映像や会話から分析します。また、「移民・難民」に関する様々な資料を読みます。こうしてフランス、イギリス、ドイツなどにおける「移民・難民問題」に関する「知識・理解」を深め、「映像分析」能力を高めることをめざします。
中川真知子 批評理論入門
テクストと本気でむきあうと、読む人それぞれの内側と結びついて、新しい表現が生まれます。このセミナーでは、20世紀にフランスで発展した批評理論を手がかりに、日本語の文章を読み、日本語で文章を書くことについて考えます。さまざまな思想家・理論家が、たとえば文学作品をどのように読んだのかを具体的に確かめながら、一年を通じて論文を完成させます。読み・書くことの実践的な方法についても、くわしく確認したいと思います。
新島進 独身者と独身者機械
生身の異性とは恋愛関係を築けず、アニメのキャラや人形に愛や性愛を感じる人が増えているといわれます。しかしこうした独身者的、幻想的な愛の形は、現代にはじまったことではありません。私のセミナーでは、ヨーロッパ近代から現代日本にいたる「独身者」とその愛の対象である「独身者機械」の登場する作品(小説、映画、漫画、アニメ、ゲーム)を考察しています。
福田桃子 スターでたどる映画史
毎週一人の映画女優と代表的な出演作二本を軸に映画史を学びます。課題映画を各自鑑賞した上で、担当者には作品解説と演技の分析をお願いします。できるだけたくさんの映画に触れながら、出演者・監督・スタッフ・映画会社などについて知識のネットワークを築いていくことで、一本の映画を観る体験はより充実したものになるはずです。映画鑑賞・プレゼンテーション・ディスカッションを通して、各受講者が映画史を立体的にとらえられるようになることと、映画や女優について単なる好き嫌いの表明にとどまらない具体的な言葉で語れるようになることが目標です。
(写真:プレストン・スタージェス『サリヴァンの旅』より)
前島和也 文法の誕生
世の中では評判の悪い文法ですが、そもそも名詞、動詞、文、主語、述語、時制、と云った概念はいつ、何のために作られたのでしょうか。トラキアのディオニュシオス(前2世紀)は『テクネー・グラマティケー(文法術)』の著者として言語学史に不朽の位置を占めますが、全ての学術同様、文法学も一人の人間が創出したのではなく、長い醸成の期間があったのです。ディオニュシオスをはじめとする文法家・思想家の抜粋を通して、今日なお使われる文法概念が生まれる瞬間に立ち会えば、文法を見る目が一変することでしょう。
山本武男 藝術を通して自分を理解する
詩や映画などの藝術作品を通し、それらに感動する鑑賞者としての自我を客観視することで、普段はあまり意識していない、より深い部分の自分の志向を発見する試みをしています。藝術を鑑賞し、解説を聞くことで客観的な知識を得て理解を深めた後、宿題として感動のポイントに関する様々な設問の盛られた課題を解いて頂きます。これらの過程を色々な作品で繰り返すことで、自身の志向の共通点を見出していきます。ここで得られた発見を、これからの人生の方向性を考える縁にして頂けたらと考えています。
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