03年経済学部卒、濱野正樹くんからのススメ
卒業生へのインタヴュー第2回目は、経済学部を卒業後、現在はフランスのレンヌ第一大学で経済学の研究を続けている濱野正樹くん(03年卒)にお願いしました。経済学とフランスとの関わりでたいへん興味深いお話を聞くことができました。
ご専門領域を教えてください。
経済学の中でも New Open Economy Macroeconomics (NOEM)という非常にアクティブな研究領域です。少し専門的に言いますと、ミクロ的基礎をもった開放系動学的一般均衡モデルで、具体的にはニューケインジアン的な枠組みに、企業、または企業が体現するヴァラエティーの増減を含むモデルを主に扱っています。経済学は、フランスではパリ、トゥールーズが二大研究拠点で、僕はずっとパリの研究ネットワークというか、そこに集まる研究者の影響下で仕事をしています。
パリには昨年のノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンの新国際経済学、新経済地理学の流れを組む優秀な研究者が、実証、理論ともにたくさんいて、そのような理由で僕のやっていることはマクロ経済学のなかでも、国際経済学色の強い研究内容になっています。
現在どんな場面でフランス語が必要になりますか?
論文を書いたり、読んだりするのはほぼ100パーセント英語です。これは国際的なジャーナルはすべて英語だからです。ただ周りがフランス人、あるいはフランス語圏の人たちばかりなので、会話やディスカッションはフランス語です。
フランス語圏で生活、お仕事をするのは日本での環境とどんな点が違いますか?
究極的には、限りある人生において、仕事とその収入から得られる消費で満足を得るのと、または仕事をしない余暇の時間で満足を得るのと、そのどちらを重んじるか、ということだと思います。日本と英米圏は前者でフランスは後者です。日本は巨大な消費社会で、そのためには働かねばならない。フランスは消費をあきらめて、しかし働かない時間を家族や友人と過ごすことに費やします。フランスにいるとわかるのですが、日本人はやはり働き過ぎだと感じます。
第二外国語でフランス語を学ぶ必要性はどんなところにあると思いますか?
先ほど述べた消費と余暇のトレード・オフもそうですが、フランスというのはある意味日本とは真逆のような国ではないでしょうか。また日本というのは非常に規模の大きな国(人口もGDPもフランスのおよそ倍)ですから、日本、日本語という「色メガネ」だけで世界と人生を裁断し、満足して一生を終わることも十分可能です。さらに日仏二国間の経済的、文化的関係は、例えば日米のそれに比べて小さなものです(端的な指標として例えば、2005年の日本の海外直接投資の流入、流出のスットク総額に占めるフランスの割合が4.5%。これにに対して同年アメリカはおよそ40%です。OECD.stat から)。逆説的ですが、だからこそ、異質なものや、多様性を学ぶ上でフランス文化、またその表現であるフランス語を学ぶ意義があるのではないでしょうか。
経済学部の現役のときはどんなことに興味があり、また主にどんな活動をしていましたか? また第二外国語は熱心に勉強しましたか?
実は第二外国語は最初ドイツ語でした。フランス語は3年時から本格的にやりだして、大学の授業以外に横浜の日仏学院に通いました。直接の動機はトックヴィルという政治学者が書いた『アメリカの民主主義』という本を原書で読みたかったからです(※)。また、たくさんの優れた文学作品がフランス語で書かれているということも大きな魅力でした。特に前島先生にはとてもお世話になって、一緒に日吉のバーでボードレールの『パリの憂鬱』や美学評論を読んだのがよい思い出です。
その後、慶応からの交換留学を利用して、ESSEC(ビジネス系グラン・ゼコールのひとつ)へ一年行きましたが、結局ビジネスの方面へは行かずに研究へと進むことになりました。
※トックヴィルについては、フランス語部会の後平が「自由研究セミナー」のテーマにしています(編註)。
経済学部でフランス語を勉強している現役生、学びたいと思っている受験生にメッセージをお願いします。
言葉を学ぶことでより重要なのは、人間の内面に与える実質的な効果ではないかと思います。異質なものを理解する、ということは難しいことですが、日本とは対極にあるようなフランス文化やフランス語からなる「色メガネ」を通して、新たに世界を見ることは、あたかも自己の中にもう一人の他人のような自己を創るようなものだといえます。これは事物の表面的な事柄に惑わされない、真理を強く追求する批判的な強い精神を生み出すでしょう。このような精神態度は義塾の「独立自尊」に深く通ずるものではないでしょうか。
また非常に実用的な側面からいって、フランス語の効用を経験からいいますと、フランス語ができると英語はものすごく簡単です。現在、ビジネスや学問の世界で英語の優位は揺ぎ無いものになっています。その英語はフランス語を一生懸命がんばると自然とできるようになります。しかしその逆は真ではないようです。これは一石二鳥とでもいえる日本人にとってのフランス語の実用的なよい側面ではないでしょうか。皆様の活躍を期待いたします。
同じ研究室のシルバンとジュリアンと
同じく
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モンサンミッシェルにて
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